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尾辻かな子が落選したワケ [選挙]

前回のエントリーを書いて、尾辻かな子が落選した理由が分かったように思う。
あれほど話題になり、メディアでも大きく取り上げられたのに、何故なのかと納得いかなかった。
この事は単に「結局セクシャルマイノリティが少数派だから」ということを意味しない。約30人に一人は同性愛者がいると言われているから、選挙権のある同性愛者が全員尾辻かな子に投票していれば、どう考えたって当選しないはずが無いのだ。
ましてや民主党がこれだけ大勝した中、非当事者からの支持もあって当たり前で、それを加味すれば更に票を得ていたに違いない。
しかし、現実には落選した。何故なのか。

同性愛者であっても、政治的な考えは様々である。自民党が好きな人もいれば、創価学会員もいれば、社民党の党員もいれば、共産党支持者もいる。
とは言え、繰り返しになるが、民主党自体は今回の選挙で大勝したのだ。民主党を支持した中にもセクシャルマイノリティがいるハズで、いくら政治的な考えが様々であるとは言え、全体的に民主党の支持者は多かったのだから、じゃあ何で落ちたんだと振り出しに戻ってしまう。
ひとつには、セクシャルマイノリティ自身が、セクシャルマイノリティへの差別問題を、必ずしも政治課題として認識できていない事があるかも知れない。確かに私は苦しいけど、それと政治に何の関係があんの?という、政治と実生活が繋がっていると思えない感覚は、セクシャルマイノリティに限らず広がっている。
更に重要だと思うのは、前回も述べた「当事者間の分断」である。私には、これが今回の選挙結果に大きく作用したように思えてならない。

話題になった尾辻かな子の結婚式に対して、一部のレズビアンから厳しい批判があった。「普段はスカートも履かないのに、どうしてウェディングドレスを来て、異性愛者のように結婚式を挙げるんだ」「それじゃ結局、異性愛者が作り上げた"女らしくして結婚するのが幸せ"って価値観の延長だ」といったものだ。
その指摘はもっともであるし、私もあの結婚式には嬉しさと同時に違和感も持った。
けれど、それでも、それでもだ。日本に一人もいないレズビアン国会議員が、生まれるかも知れない。そのことに単純に賛成し、一票を投じる事が出来ないのは何故なのか。
以前なら、いわゆる弱者の当事者の中から、その一人が代表として名乗り出て「私たちへの差別を無くすために戦う!」と宣言する事は、ほとんどの当事者から無条件に歓迎された。
しかし、今は違うのだ。セクシャルマイノリティと一言で言っても、そのあり方、社会的な地位、考え方は様々だ。社会が多様化するに連れ、あらゆる少数者・弱者も、多様になってきている。そうした時代の中で、「代表者」として名乗り出た人間に他の当事者が向けるのは「なんで、あんたが代表だって言えるわけ? その資格あるわけ?」という冷静な視線である。

これは尾辻かな子に能力が無いわけでも、セクシャルマイノリティが冷酷なわけでもない。
私たちの社会は既に複雑化しており、ただ当事者だから、というだけでは共通項にならない。
けれど、当事者が多様化し多層化する中で、では世間は多様性を認めるようになってきているかといえば逆である。弱者の多様性ゆえに団結が難しくなり、大きな運動にならず、結局は多様性が更に排除されていく。
当事者運動がひどく難しい時代の中で、「多様性が広がっているからこそ、多様性が排斥される」という矛盾に、解決策はあるのだろうか。

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北原みのり「尾辻かな子さん」


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コメント 6

m

尾辻かな子の敗因は、(広い意味での)選挙戦略の失敗、それに尽きると思う。

28歳という最年少で府議に当選したという輝かしい実績をもち、しかもルックスも悪くはない、とすれば、やり方を間違えなければかなり高い確率で当選できたと思います。

端的にいえば、あまりにも「レズビアン」を前面に出しすぎたということです。
大阪府選挙管理委員会のHPに大阪府各市区町村での尾辻の得票が出ているけれど、府議としての自分の選挙区であった堺市(堺区)は、惨憺たるものでした。府議として4年間地元のためにまともに働いていたら、こんなの絶対にありえないです。私たちは尾辻がカムアウトしてからの約2年、地元をほったらかしにして全国あるいは海外へ飛び回っていたことを知っています。しかも、参議院選挙では縁もゆかりもないはずの東京(新宿二丁目)に拠点を移す一方で、堺の事務所はさっさと畳んでしまいました。

同じ政党から比例で立候補した元タレント・衆議院議員の青木愛さんなど、地元の千葉県で10万票以上の大量得票をし、それだけで当選圏に到達しているのと好対照です。

知名度が必ずしも票に結びつかないのは黒川さんたちが証明済み。尾辻はマスコミなどには異例なほどとりあげられましたが、その扱われ方は「泡沫」「色物」のノリでした。売名には役立ったかもしれませんが、せっかくのいままでの政治家として積み上げてきたはずのキャリアが「相殺」されてしまったことは否めません。

もし尾辻が次回出るのなら、今回尾辻の回りにいたようなくだらない同性愛運動家とはきっぱり縁を切り、国会議員の秘書やインターンになるなどして、地道に政治を学び研鑚して欲しいです。政治のセンスはあると思うので、今度の選挙では、まず政策や政治家としての能力で勝負して欲しいです。レズビアンはあくまで「おまけ」として。
by m (2007-08-03 19:12) 

sasakich

mさん、コメントありがとうございます

尾辻さんの地元(大阪)の方なのかな?
私はレズビアンである事を前面に出したこと自体は、彼女の政治姿勢としても選挙戦略としても間違っていなかったと思います。そのためには二丁目(セクシャルマイノリティの聖地)に事務所を構えた事も当然だし、一般的な選挙争点ではなくセクシャルマイノリティに限って政策を訴えた事も当然だと思います。

むしろ不思議なのは、そこまでしたのに、なぜ当事者の票がさして集まらなかったのかという点。
有権者のセクシャルマイノリティは、人口比からするとおよそ200万人と言われています。それにも拘らず、尾辻さんの実際の得票数は4万票にも届かなかった。つまり1/50以下です。
私はマイノリティの一人として、尾辻かな子が非当事者に受け入れられなかったことよりも、当事者の指示を集め切れなかったことにこそ問題の難しさを感じるのです。

p.s
「くだらない同性愛運動家」とは、今回、尾辻さんを支援した人々がくだらないと言うことですか?
もしくは同性愛者(やそれを支援する運動家)がくだらないって事でしょうか?
by sasakich (2007-08-04 00:27) 

m

お返事ありがとうございました。

しかし正直言ってあなたは状況がまったく読めていないと思います。

この「業界」にいれば分かりますが、尾辻は必ずしも当事者の間で絶大な人気があるとは言えない人です。今回、彼女の選挙のバックにいたのも東京の人たちばかりで、本来彼女と近しい関係にあるはずの関西の人間がほとんどいなかったことは、少し注意してみればわかったはずです。

選挙の本拠地を二丁目に移したのも理解できません。大阪にだって堂山というゲイタウンはありますし、そもそも尾辻はそこの出身なのだから。

早い話が、尾辻は関西の人間(当事者・非当事者問わず)にとことん嫌われていたのです。それが、大阪府での、あの驚くべく少ない票数に表れています。

わたしはLGBT当事者のあいだにも、「自分も当事者だから、当事者に入れる」などという軽薄な人間が少なかったことに安堵しています。同性愛関係を除く尾辻の政策はあまりに空虚で、さすがに国政を任せる気にはなりませんでした。タレントじゃないのだから、CDを出したり、クラブハウスでライブをやってる暇があるなら、もうすこしまともに政策を練ったりすればよかったのに。せっかくの府議のキャリアが台無しです。

当事者を相手にしても今回のがせいいっぱい、もうこれ以上伸びることは多分ありません。次の選挙に出てもマスコミが取り上げることは絶対にないし(結婚式は一度しか出来ないはずですし)、府議のキャリアからは遠ざかるし、年齢も重ねてしまいます。もし本当に政治家として再起したいのなら、もともと少ない当事者相手ではなく、一般人をも納得させるべく、例えば国会議員の秘書・インターンなどとして地道に政治を学んできてもらいたいものです。

「くだらない同性愛運動家」一見すればわかりますよ。尾辻事務所に集った社会性ゼロの連中や、ネットを通じて狂信的で公選法を無視した運動を繰り返した連中など、正常の感性を持った人間ならドンビキです。
by m (2007-08-04 03:30) 

m

それと、

>二丁目(セクシャルマイノリティの聖地)

いまや二丁目にそんな力はありません。
ネットの普及で出会いの場が広がったいま、ゲイタウン自体が衰退しているし、東京では新橋や渋谷などにも分散しているのが現実です。

つまり、LGBT当事者の圧倒的多数は、二丁目とはまったく無関係なところで生活しています。それを読めなかった尾辻の負けです。
by m (2007-08-04 03:40) 

sasakich

再返信ありがとうございます。
mさんの仰る事に納得する部分もありますし、私の知らない現場の情況をお伺いして「なるほど」と思う部分もあります。ただ、そうした実情こそが「当事者の分断」を示していると思うのですが。
尾辻さんが地方の当事者に指示されず、人々が「何はともあれ国政に当事者を」と思わなかったことに、ある種の誠実さがあるとは私も思います。ただ、その誠実さが本当に自分たちのためになるのかを考える必要もあると思うのです。
尾辻さんが当選することでのデメリット(自分たちの代表にふさわしくない人が、社会的に代表者とされてしまう)があるのは分かりますが、じゃあ落選したらメリットあんの?落選する事にデメリットは無いの?って事です。
現に今回の選挙結果を受けて、大阪や東京の実情を知らないフツーの人々は「やっぱ同性愛者なんて少数だし、社会に認められてない」と受け取ったでしょうから。

いずれにせよ、私もこれ以上、尾辻さんが当事者からの支持を広げる事が難しいとは思います。
再起のために「フツーの政治家」になる事が必要だとも思います。
だからこそ、それってなんだかねーと思うのです。

あと二丁目に関して、田舎のLGBT当事者にとっては、そこで生活していないからこそ「聖地」であり「憧れの地」であり続けていると個人的には思います。
by sasakich (2007-08-04 11:47) 

m

欧米のカムアウト政治家のほとんどは、「フツーの政治家」ですよ。
彼らは政治家としての実績・能力がまずあって、ただ性的指向が同性に向いているというだけの話です。
尾辻のように、政治家としての実績・能力そっちのけで「レズビアン」だけを前面にして選挙を戦い、勝った人など寡聞にして存じません。
尾辻は当選ラインを「15万票」と踏んでいましたがそれ自体は正しい。今回の民主の好調は特別であり、今後ここまで民主が勝つことは考えられないから、政党を問わずに当選を果たすとすれば15~20万票が必要であり、そこからすれば、尾辻の今回の票はそれに遠く及ばない大惨敗といえます。まずこの事実を本人も支援者も、正面から受け入れることが必要です。

>現に今回の選挙結果を受けて、大阪や東京の実情を知らないフツーの人々は「やっぱ同性愛者なんて少数だし、社会に認められてない」と受け取ったでしょうから。

ああ、その危険は十分ありますね。だけど、今回のようなやり方では現実として勝てないことがわかったはず。とすればやり方を変えるほかないじゃないですか。当てにならず、これ以上伸びも期待できない同性愛者票を当てにするよりは、いままで4年間培ってきた地元に戻ってやり直したほうが可能性が高いと思います。将来比例に出るとしても地元の票が大切なのは、全国型のタレント・組織候補を除く他の当選者(とくに地方議会出身者)の票を見ればわかるはずです。

私が尾辻なら今すぐにも、堺市に戻って駅立ち・辻立ちを始めます。一度捨ててしまった地元ですから、何言われるかわかりませんが、そこは我慢しないといけません。
by m (2007-08-04 12:59) 

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