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複雑化する「権力」と「弱者」 [総論]

先日、朝日ニュースターの番組で、光市事件について扱っていた。と言っても事件そのものではなく、事件の影響による弁護士バッシング問題を扱っていた。弁護団への脅迫が相次いでいること、マスメディアが弁護士へのバッシングを煽っていることなどに強い疑問を呈する内容だった。
テレビ報道が弁護士を圧倒的に叩いている中、勇気ある態度だと思うと同時に、いわゆる"ヒダリ"の限界もまた感じた。
レギュラーメンバーである女性の一人が、こうしたバッシングに対して「権力側を批判せず、弱いものばかり叩いてる」と発言していたからだ。これが昨今、"ヒダリ"や"リベラル"が叩かれる理由と、それを容易には覆せない理由を象徴している。

弁護団を批判している人々は、自分が「弱いものを叩いている」などとは思っていない。
実際、ネットで弁護団批判をする人の多くに見られるのは「被害者遺族は一人で戦ってるのに、加害者は20人を越える弁護団を結成して、大人数で被害者を侮辱している」的な内容だ。彼らは悪人を叩く事をまず正義だと思っているし、自分たちは弱者を救済する正義だと思っている。彼らにとっては、加害者側・弁護側こそ「権力を持った強者」と映っているのだ。そこに"ヒダリ"の人々との認識の開きがある。
こうした世界観は、いわゆる2chウヨクのそれと共通している。
彼らも障害者を差別したり、外国人を差別するとき、弱者を叩いているとは思っていない。むしろ、弱者である事を盾にして権力を持っている、権力側の人間を批判する行為だと感じているだろう。
このことは、一定の時期、いわゆる"ヒダリ"的な価値観に社会が呼応し、支持してきた歴史が前提にある。その中で、現に(例えば同和利権に見られるような)弱者への度を越えた優遇が批判され始めたにも関わらず、メディアがそれを取り上げてこなかった。そのことへの疑問や反発が、今の2ch的差別問題の源泉のひとつであると思う。
だからこそ彼らは、自分たちは権力に反抗していると思っているし、自分をメディアに載せられない人間だと思ってもいるだろう。かつてと同じように障害者や外国人や犯罪者が差別されていても、その裏にあるのは、以前より少し複雑なロジックではないのか。
何が権力で、何が弱者なのかという認識が複雑化してきている。

しかし、それに対してやはり疑問に思うのは、この世界観からは、「国家権力」や「メディア権力」の要素が抜け落ちている場合が多いからだ。
光市事件にしても、確かに加害者と被害者だけを見れば、加害者は圧倒的な強者である。まず殺害というこれ以上ない暴力を行使しており、裁判で公的に発言を許され、20人を超える弁護団に守られている。一方で被害者は、家族の命を奪われ、裁判にも参加できず、権利を守ってくれる弁護士もいない。
まさに「加害者の権利ばかり守って、被害者の権利が守られていない」だろう。
だが見落としてはならないのは、裁判には検察という国家権力が参加していることだ。裁判は少なくとも制度上、被害者vs加害者ではなく、国家権力vs被告人が対決する場所であり、弁護士は被害者から加害者を守るのではなく、国家権力が被告人の権利・利益を奪う事を防ぐ仕事である。
それを抜きにして、つまり国家という絶対的な権力の存在を無視して、加害者側が「強者」であると認識する事は思い違いとしか言いようが無い。加害者は被害者に対して「強者」であると同時に、メディアや国家に対して「弱者」なのであり、だからこそ弁護士が必要だし裁判が必要なのだ。
もしも加害者を弁護する人間がいなくなれば、容疑者はメディアによって有罪化され、検察の主張する通りに刑が確定し、冤罪や誤判(事実に即していない誤った判決)がいくらでも出る。

いったい誰が誰にとって強者で、誰が誰にとって弱者で、何が権力なのか。国家権力とメディア権力を視野に入れた上で、もう一度、見渡してみる必要があるだろう。


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コメント 6

天性の庇護者

難しい問題ですね。弱者叩きの時代ですね。アンチ左になっている理由もわかります。やはり90年代までの日本の左向きの状態もひどかったですから、ですが、少し振り幅が大きすぎるような気がしますね。マスコミは視聴率のために振り幅を大きくするしか持たないんでしょうな。庶民よ知れ、テレビ左翼とテレビ右翼ははっきりいってどっちもどっちである。最近思うことですけどね。だってより極端な人ほど起用されるのがテレビですから。
by 天性の庇護者 (2007-10-08 00:56) 

sasakich

天性の庇護者さん

来訪&コメントありがとうございます。
どういう問題についても、日本はとにかくふり幅が大きすぎて極端だと思います。
まぁ、やっぱテレビは「分かりやすく」が重要なので、仰るように極端な人ほど起用される。で、その中では一方が絶対悪、一方が絶対善、という100か0みたいな判断しか生まれないので、こんなことになっちゃうのかなーと。
by sasakich (2007-10-08 17:33) 

天性の庇護者

こんばんは。朝方にすいません。
テレビで気になっているんですが、橋下弁護士がテレビでやっていることは世間というワードを使ってますけど、たしかに世間は情報のすくなさから煽られてしまうんですが、事実もわからないのに、煽ってしまっているコメンテーター連中は問題ありですね。本質的に強い相手には腰砕けなコメンテーターなんで、煽られている人ももう少し冷静に観て欲しいものです。
世間様ってもんは上っ面しか観ない事を知らんのだろうか。
ま、橋下さんは衆愚政治って言葉は失礼だっていってましたね。そういっている奴はヒトラーに踊らされた人民をみてどう思うんですかねぇ。まったく人心を掴む事と人格とは平行しないのに。まさにマスメディアは腐ったと確信しました。いろいろと議論はありますが、ネットではバランスをとった意見をとろうとしていますね。
by 天性の庇護者 (2007-10-09 05:06) 

sasakich

天性の庇護者さん

橋下さんは、当初は本気で煽ろうとしていたんでしょうが、今はもう「言ったからには引き下がれない」って状態にも見えます。その他のコメンテーターにしても、一度声高に叫んだことを訂正するのはなかなか難しいので、引くに引けない部分もあるのかなと。
それに安易に乗せられてしまうってのも問題ですけどね。メディアリテラシーが無いって本当に怖いことです。
by sasakich (2007-10-09 13:38) 

天性の庇護者

まだコメントできそうなのでコメントします。
今日は攻撃に近いコメントはしません。
私も誰が悪いって言う問題ではないような気がします。
デスノートみて感じた事は、キラって結局容認されたのでしょうか?世間はともかくニアと正常な判断力のある人はやはりキラの行為はただの殺人だといいました。
キラはマスコミ利用して、今の犯罪者は殺しても何が悪いって煽りました。自分のえげつなさを棚に上げて、どうも今のマスコミってキラに利用されたマスコミとそっくりなんですよね。
死刑死刑と言っている人は、お前が被害者になったらとかもう、感情的な攻撃してきますが、これが大衆というものなんでしょうね。
たしかにキラは正義感が強かった。しかし反面、自分に陶酔する性格的な欠陥があった。自己陶酔する人は狂気になりやすい。
たしかに犯罪者は私も憎い。つか自分の身内が殺されたら殺しにいくかも知れない。でも、やっぱり外野はそうであってはおかしいんだよ。被害者だけがそれをいってもおかしくない存在。周りは客観視して冷静にならなきゃ。

メディアリテラシーについては、日本人に期待しても無理です。だいたい日中バラエティで学があると勘違いしている視聴者が、僕はあんな賢い番組で知った事実なんだから怒って当然とか言う始末。

頭がいいなら、弁護士にケンカうらないでしょうにいくら煽られたとしても昔、私も煽られかけて迂闊な行動する寸前で踏みとどまりました。煽りは無責任な行為です。迂闊な行動とは別に犯罪ではないのですが、やはり自分を不利にする行動を他人に煽られたからと言ってやるのは挑発にのってケンカする人と同じです。

そもそも、ネットの世界は無限です。本当に頭のいい方がいますから民主主義とは正義ですが、民主主義が絶対とは思いません。

だって頭がいい奴がただの烏合の衆である大衆より間違っているとは限らない。つか烏合の衆という言葉があるのは

数が正義じゃないという東洋の博学思考にあるでしょう。

1人の天才と10万人のバカ。

世間様を気にするのはわかりますが、世間様がかならずしも正しい決断するならドイツは戦争でああいった行動しなかった。

世間も間違う事がある。ということさ。ミスリードされたらね。
by 天性の庇護者 (2007-10-18 02:29) 

添え状

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
by 添え状 (2012-04-10 20:08) 

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