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選挙権の無い人々 [選挙]

選挙5日目。時たま宣伝カーを見かける中で、不意に思い出したことがある。
10年近く前、在日コリアン(3世)の友人が自分のサイトで、日本に生まれ育ったのに選挙権をもてない自分と、「日本人」でありながら政治への無関心ゆえに投票しない人々について触れ、その不公平を書いていた。いつもはバカバカしい内容専門のサイトだったから、妙に印象深かった。
だから、フト「あぁ、そういえばあいつは選挙権が無いんだ」と思い出したのだ。

そんなわけで、今日は選挙権に関して。といっても「在日」だけが問題ではない。
参議院・衆議院の選挙権は「満20歳以上の日本国民」に与えられるので、外国籍の人には(日本に生まれようと、何年日本に住もうと)選挙権が無いことは、ほとんどの人に知られていると思う。しかし実は、この「満20歳以上の日本国民」の中にもいくつかの例外がある。
(公職選挙法 第11条1項より)
 1.成年被後見人
 2.禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者。
 3.禁錮以上の刑に処せられ、その執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者は除く)。
 4.公職にある間に犯した収賄罪により刑に処せられ、実刑期間経過後5年間を経過しない者。
 5.選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行猶予中の者。
 6.公職選挙法に定める選挙に関する犯罪により選挙権、被選挙権を停止されている者。
 7.政治資金規正法に定める犯罪により選挙権、被選挙権が停止されている者。
2~7については、ようするに犯罪者だから(特に5~7に関しては選挙・政治の場面での犯罪だから)選挙権が無いということで、これも多少は知られているだろう。
だが、1.成年被後見人についてご存知の方は、かなり少ないのではないかと思う。

成年後見制度とは、認知症や知的・精神的障害などの理由で、財産管理や契約・遺産分割などの手続きを自身で充分に行えない人のために、それを保護し支援する制度である。保護と支援には後見・保佐・補助と種類があるが、いずれにしても家庭裁判所の選んだ成年後見人などが、本人に代わってそれらの法律行為を行ったり、補佐することになる。
悪用を避けるために後見人の選任に留意するなど、いくつかの留意点・問題点はあるものの、障害当事者が社会生活を送る上で、もちろん必要な制度である。
しかし、この制度には現在、意外なデメリットがついてきている。
そう、成年後見人制度を利用すると、自動的に選挙権が剥奪されるのだ(保佐・補助の場合は異なる)。実はこのことは、成年後見制度を利用している本人や家族ですら知らないケースが多いようだ。【成年後見制度と選挙権に関するアンケート】
では、なぜ成年後見制度を利用すると、選挙権が無くなってしまうのか?
国側の説明としては「財産管理や契約に支障をきたすような人に、誰がいいか、どの党がいいかを選ぶ判断能力は無い」といった趣旨である。これには障害者団体や弁護士会から人権侵害であるとの批判が出ており、改正が求められているところだ。日弁連【成年後見制度に関する改善提言】(PDF)

成年後見人制度を利用していようがいなかろうが、その人はその人だし、同じ判断力で同じ人格だろう。成年後見人という福祉サービスを受けたからといって、それと引き換えに国民としての権利を奪われること自体、極端に不公平なギブ&テイクと言わざるを得ない。

さて、もう一方で、法律には規定されていない「選挙権を持たない日本国民」がいる。
選挙に参加するとき、選挙権があると証明するものは何か?
それは選挙人名簿であり、私たちの元に届く「投票所入場券」である。
では、「投票所入場券」はどうやって私たちの元に届くのか?
ご存知の通り、ハガキとして郵送で送られてくる。
ここで問題となるのは、住所である。選挙人名簿に登録されている選挙人(有権者)であっても、住所が無ければ、当然だがハガキが来ない。一応、法律的には選挙権があるものの、実質、それを行使することは不可能なわけである。
つまりホームレスやネカフェ難民、マック難民は、どんなにこの政治のあり方がおかしい、俺の貧困は政府の責任だ!と怒っていても、その思いを投票行動として示すことが出来ない。

このように障害者や貧困者から選挙権が奪われることは、どんな影響を及ぼすだろうか。
政治家が何よりも手にしたいのは「票」である。もちろん、有形無形の利権や、人によっては社会正義を求めて政治家となる人もいるだろう。だが、いずれにしても、まず当選しなければムリな話だ。当選無くして利権の獲得も社会正義の達成もあり得ない。
当然、票になる問題(例えば年金問題)については積極的に政策を打ち出すが、一方で票にならない問題については、ほとんど議論すらされず放置されていく。自分に投票しない(出来ない)人たちのことを優先的に考え、行動する政治家など、ほとんど存在しない。
現に、メディアの世論調査で「国民が何に関心を持っているか」が明らかにされれば、その問題を重点的に訴えて、選挙は戦われるわけである。これは日常の政治活動においても同じことだろう。
だから選挙権が無いということは、単純に権利の問題なのではない。そのような人々を支援する政策が立ち遅れる(又はまったく行われない)可能性を拡大する意味でも、選挙権が剥奪されることの影響は大きい。

もちろん、多くの人が関心を持つ問題が解決すれば多くの人が救われる。
それ自体が悪いわけでもなんでもないし、確かに優先順位としては上なのだろう。
だが、大きな声をあげることの出来ない、いや、わずか一票すら投じることの出来ない人々の周囲にこそ、社会の劣悪さは充満しているのではないか。


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