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裁判員制度の広報資料 [司法]

さて、裁判員制度を想定した模擬裁判に参加してきました。
そして私は、な・なんとくじ運の悪さ(?)から弁護人になってしまいました(爆)
しかも無罪主張だったのに判決は懲役6年です。ゴメンよ、被告人・・・。
裁判員役以外の人は評議内容を知ることが出来ないので、一番知りたかった「どういう議論になるのか」は分かりませんでした。

ということで、あまり参考になりませんでしたが、帰りにもらった広報資料が面白かったです。
裁判員制度についての広報資料はいくつも出ており、私も目を通したり通さなかったりですが、今回もらった中に日弁連の作成したものがありました。実に80Pに及ぶ資料で、ページ数だけで日弁連の気合の入れ方というか危機感の強さというかが伝わってきます。原作は「家栽の人」の原作者で、監修・発行は日弁連です。
最高裁や法曹三者で作った資料はいくつか見ましたが、日弁連発行のものは初めて目にします。
で、内容的にも他の広報資料とは明らかに一線を画しています。
だいたい裁判員制度の広報資料ってのは、「難しくないよ」「法律の知識が無くても大丈夫!」「そんなに負担がかからない♪」という、参加を促すメッセージのオンパレードです。一緒にもらった最高裁発行の資料はまさにそうで、中には裁判員に選ばれる確立について「そりゃ選ばれればラッキーってな感じの確立だな!」って台詞まで出てきます。
ラッキーなんでしょうか、裁判員。

今まで目にした広報資料だと、メディア報道を参考にしてはいけない・推定無罪原則を守らなくてはいけないといった点は、サラッと形式的に説明してあるのが普通です。
しかし、日弁連の資料は違います。「弁護人としちゃあ、ソコを軽視するわけにいかん!」という気合が伝わってきます。
方式としては、仮の事件・裁判を想定して、マンガで裁判員裁判が進み、その中で「裁判員って何をするのか?どういうことが重要なのか?」を解説していくオーソドックスな物です。最高裁の発行するものと手法的には同じです。でも中身は全然違います。
日弁連発行「裁判員になりました -疑惑と真実の間で-」の特筆すべき点をご紹介しましょう。
◆メディア報道について
なぜ報道を参考にしてはならないのか?報道内容を忘れるなんて無理じゃ?と主人公が質問。
これに対し、複数の裁判員から「メディア報道が必ずしも正しくない」旨の発言。その中で、マスコミ報道は警察の話を伝聞しているだけの場合が多い、背景として記者クラブ制度がある、誤報を訂正するのは難しい、といったことが詳しく述べられ、松本サリン事件の誤報ケースを紹介している。
◆裁判に当たっての心構え
「疑問の余地が無いほどに、有罪を確信できるかどうかを考えていただくのです」
「茶の間でニュースを観るような軽い気持ちでは困ります」
◆裁判において
検察側が、それなりに「なるほど」と思える主張。
それに対し、弁護側が主張するに当たって冒頭で「裁判の席で検察官が話したことが、必ずしも真実とは限らないということも、まずは心に留めていただくようお願いします」「さきほど語られた事件のあらすじは、被告人の渋谷さんを有罪にするために、いわば検察官が主張されているストーリーなのです!」と裁判員に訴える。
◆現状の司法制度の情況
・日本の有罪率は99.9%と限りなく100%に近い。検察が充分に検討した上で起訴しているからとの説もあるが、それが職業裁判官に「訴えられた時点で有罪」との思い込みに繋がっている可能性もある。
・検察側のほうが圧倒的に情報量が多く、弁護側は捜査権限もなく人員的にも不利であるため、証拠を集める能力に大きな差がある。
・殺人など重大事件では、逮捕された人が代用監獄・拘置所に拘束される。その中で検察は自由な取調べが出来るのに比べ、弁護側は取り調べに立会いも出来ず、わずかな接見時間しかない場合が多い。
◆推定無罪原則
「裁判を受けている被告人は基本的に無罪と考えた上で、裁判員・裁判官は証拠を見ることよね!」
「まず、被告人は罪を犯していないのではないか、という合理的な疑問が残る限り無罪としなければなりません。検察官はその疑問がなくなる程度の証明をしなければならないのです」

こうした内容に、ここまで踏み込んでいる裁判員制度の広報資料を私は他に知りません。いや、私が知らないだけかも知れませんが。
裁判所の発行する資料は、市民に参加を渋られている裁判員制度について、いかに負担が少なくて難しくないかを訴えるものがほとんどです。一方で弁護人としては、「そんな軽い気持ちでやられちゃタマラン」というところでしょうか。「茶の間でニュースを観るような軽い気持ちでは困ります」との台詞は、日弁連の心の叫びのようにも聞こえます。
特にメディア報道に関して、冒頭でかなり詳細に「報道=事実とは限らない」との説明をしているのが印象的です。既にメディアが有罪化してしまった被告人の場合、報道内容が裁判員の判断に大きく影響するのでは、との強い危惧を持っていることが伺われます。

この広報資料のように充分な説明があれば、裁判員制度の導入によって被告人の利益が損なわれる可能性は低く、むしろ無罪判決が増えたりするかもしれません。
しかし重要なのは、広報資料では、報道の問題点、現状の司法制度の問題点(有罪率、代用監獄、不利な弁護人の立場など)はすべて裁判員から語られていることです。つまり裏を返せば、このような説明を職業裁判官がしてくれる保障は無い(又は基本的にしない)、って事じゃーないんでしょうか?
そうすると、こんな知識を持った裁判員がいない場合(の方が多いように思いますが)、評議の流れはかなり変わってきます。この資料では最終的に無罪判決となってますが、前著したような知識がなければ、それでも無罪が出ますかね。
まぁ、実際にはこうした点を弁護人が裁判員に説明していくことになるのでしょう。
ただ、弁護人はやはり「偏った」立場ですから、そういう人が被告人を守るために前著のような事実を紹介するのと、利害関係のない裁判員が一般的な知識として紹介するのでは、同じ内容でも印象には大きな差があります。
裁判員制度導入に当たって、検察・弁護人とも、プレゼンテーション能力が求められることになりそうです。


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コメント 2

No Name

世間では、裁判員制度の中身自体より、「選ばれた場合の面倒さ」だけが喧伝されてしまっているようで、裁判員という名前は知っていても、なかなか内容や、まして司法の原則については知らない(というより知る由もない)のが現状ですね。

そういう中でこうした現状を知ることができる場(ブログ)はとても重要と思います。

日本人の場合、日頃から法律に直接携わることはなく、どちらかというと経験則(赤信号を渡ると「おまわりさんに注意される」など)に近い間接的な接し方しかしていない場合が多いので、それが、司法に直接関わるのをためらう理由になっているのではないかと思います。
(司法側も「知らしむべからず、寄らしむべし」という態度で司法を上からのものとして扱ってきたという事もあると思いますが。)
by No Name (2007-10-11 09:32) 

sasakich

No Nameさん

来訪&コメントありがとうございます。
裁判員制度についてはかなり「ヤバイんじゃね?」という危惧が出てきているので、反対派の人は「こんなに大変!」と言い、導入したい側は「こんなに簡単!」と言ってる状態のように思います。
ただ、いずれにしろ2年後には始まるので、その中でどうやったら良いのかも考えていかなくちゃなーと思っています。そうした参考になれば幸いです。
私としては、裁判員制度が「市民が司法への理解を深める機会」になってくれることを願います。
by sasakich (2007-10-11 15:24) 

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