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被害者バッシング×弁護団バッシング [犯罪被害者]

多くの「注目事件」で、重罰を求める犯罪被害者・犯罪被害者遺族(※以下、多用するため「遺族」と表記)がメディアで大きく取り上げられる今日この頃。被害者感情を盾に弁護人へのバッシングが相次ぐ一方で、遺族へのバッシングも起きている。
もちろん弁護士バッシングに比べれば「量」には歴然と差があるものの、量が少ないから良いとか、そういう問題でもない。
批判内容としては、声高に極刑を訴えるなんて人間性を疑うだとか、遺族の立場を利用して利権(金銭的・社会的地位など)を手にしているだとか、あいつは性格が悪いだとか、態度が悪いだとか、顔が気にくわんだとか、とにかくまーナントカカントカ。
また一方で「許すことが出来ないなんてかわいそう」「相手を恨んでも亡くなった被害者は喜ばない」といった、極めて「良心的」な「同情」も見受けられる。
弁護団へのバッシングや、まだ被疑者段階の人へのバッシングにも憤りを覚えるが、こうした遺族バッシングを目にするともっと別の感情に襲われる。それは、憤りを通り越して明らかに怒りであり、グロテスクなものを見せ付けられたことへの嫌悪であり、形容しがたい「この上なく嫌な感じ」だ。

遺族に対して、個人的な好き嫌いや、やり方に対する賛否があることは理解できる。「被害者救済運動」としての考えや方法について批判の余地はあるし、それが完全なタブーになっている現状を問題だとは思う。
しかし、それはそれ。仮に非人間的でムチャな方法を取る遺族がいたとして、だからといって彼・彼女らの「絶対的な悲劇」には変わりが無いし、気に入らないからといって権利が奪われて良いはずも無いし、侮辱されていいはずも無いし、攻撃されて良いはずも無い。だいたい、個別事件に当事者がどう対峙する「べき」かなんて、赤の他人が云々すべきことなのか。
また問題だと思うのは、というか私が死刑廃止論者として特にヤレヤレと思うのは、遺族に否定的な発言をする人に死刑廃止論者や重罰化反対を掲げる人が少なくないことだ。
重罰化論者が、自分の考えと異なる遺族(例えば死刑廃止を訴える遺族)を批判する場面を見聞きしたことは無いが、死刑廃止論者や重罰化反対論者が、遺族に否定的な意見を述べるケースは、ネット上で散見される。
こうした死刑廃止論者・重罰化反対派の行動が、自身への「狂信的なサヨク」「加害者の権利ばかり主張して被害者の権利を守らない」といったイメージを更に強化していく。
まぁ、そもそも重罰化論者のほうは、現状では圧倒的多数だから、共感しない遺族にわざわざ反応しなくても済むわけで、単に無視しているとも取れるけど。
いずれにしろ、結局この社会はいつも、自分にとって「良い弱者」と「悪い弱者」を選別し、気に入ったほうだけに手を差し伸べるのだとつくづく思う。重罰化論者の多くは、重罰を求める遺族だけにを根拠に主張し、死刑廃止論者や重罰化反対の人間の多くは、同じ考えを持つ遺族だけを根拠に主張する。

昨今、重罰を要求する遺族が「発見」されて来たことで、出版に繋がったり、団体の役員になったりと、社会的な影響を与えることもある。遺族感情が大きく報道されることで、社会が呼応して現実の制度や司法に影響を及ぼすことも実際起こっている。
それを見て、死刑廃止論者や重罰化に反対する人々が「あんなことを言う遺族さえいなければ」と「あってはならない否定的な気持ち」を持つことは、状況的には理解できる。
しかし、だ。
例えば今より刑罰が軽かった時代の遺族は、極刑を望む人がいなかったのか。死刑を廃止している国で、「犯人を殺してやりたい」と感じ、発言している遺族はいないのか。
そんなわけは無い。
遺族にはどんな感情を持つ自由も、どんな要求をする自由もある。問題は、それをメディアが「絶対的な正義」として報道するかどうかであり、司法がその要求を現に実行して見せるかどうかであり、社会が遺族の極刑要求に加勢して「殺せ!」と叫ぶかどうかだ。
つまり、私たち「第三者」側の判断こそが問題なのである。社会の悪さ加減の責任を遺族に押し付けるのは、卑怯な逃げに過ぎない。それは、本当は自分の加害衝動から弁護人バッシングをしている人間が「遺族が怒っているから」と、遺族感情を免罪符にする状態とさほど変わらない。

偏向報道が起きるのも、弁護人がバッシングされるのも、重罰化も、死刑制度がなくならないのも、司法が崩壊していくのも、私たちの責任であって遺族のせいではない。また、なにが遺族にとって「救い」で「あるべき精神状態」かなんて、赤の他人が規定するにはおこがましすぎる。
私は死刑廃止を望み重罰化に反対しているが、そのことは遺族が応報によって救われる可能性を排除するのだから、ある意味では重罰化論者よりも一層、真剣に遺族感情に耳を傾け、打開策を模索すべきだと考えている。


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コメント 3

円

いつもなるほどと思いながら読んでいます。
でも、ちょっと気になることがあったのでコメントします。

>重罰化論者が、自分の考えと異なる遺族(例えば死刑廃止を訴える遺族)を批判する場面を見聞きしたことは無いが

原田正治さんはバッシングを受けたそうです。
http://ww4.tiki.ne.jp/~enkoji/harada.htm
原田さんも「良い被害者」と「悪い被害者」があると言われています。
我々第三者は被害者のことを本当に考えているのかというとそうではなく、自分の持っている被害者像を投影しているだけで、イメージと違えばバッシングするのではないかと思います。
by 円 (2007-09-23 21:53) 

sasakich

円さん

コメントありがとうございます。

>原田正治さんはバッシングを受けたそうです。
そうでした。知ってたし忘れていた訳じゃないのですが、これを書いたときは若干記憶から削除されてました(^^;
正直、死刑制度や重罰化に否定的な人が被害者を批判したり、心情を云々する場面を見すぎて「仲間内」だから余計に腹の立つ部分があり、そちらを強調し過ぎたかも知れません。ご指摘ありがとうございました。
by sasakich (2007-09-23 22:28) 

wada

今次々にブログを読んでいますが、こちらの意見はとても貴重と思い素直に賛同したいと思います。
by wada (2008-01-29 16:42) 

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