SSブログ

暴力はマイノリティを救うか [総論]

通称「赤木論文」が話題になったのは、もう結構前の話だ。特に取り上げる必要も無いと思って放置していたが、雨宮処凛のオールニートニッポン第9回を聞いて思うところがあったので、遅まきながら取り上げたい。
といっても、今回オールニートニッポンに出演していたのは赤木氏ではなく、革命的非モテ同盟の書記を勤める古澤氏だ。番組内での言動から推察すると、古澤氏は赤木氏に対して批判的な印象を受けた。だが私は、この二人の「意図せざる共通点」にこそ注目したい。

雑誌「論座」に掲載された、赤木論文と呼ばれる文章の概要はこうだ。
=============================
赤木氏にとって「平和」とは、現在の社会的・経済的な立場の固定を意味する。
その「平和」の中で、31歳フリーターである自分に生涯チャンスは訪れず、貧困から脱するのは不可能だ。しかし、戦争が起これば社会は流動化し、フリーターにも立場逆転のチャンスがめぐってくる。例えばかつて、政治思想家の丸山眞男が軍隊に入った際、自分よりも学歴の低い一等兵にひっぱたかれたように。
現在の固定化した貧困層の立場を覆せるチャンスが「戦争」にはあり、だからフリーターにとって、「希望は戦争」なのだ。
=============================

さて一方で古澤氏は、連帯についてこう述べる。こちらも概要だけ紹介しよう。
=============================
非モテもニートも、弱者ではない。何故なら、だれもが人を殺せる程度の暴力行使能力があり、「人を殺せる確信」があるからだ。
国家は結局のところ暴力装置であって、民衆一人一人の暴力を結集することで大きな力を持つ。
しかし、国家が結集しているその能力は、本来は民衆一人一人の自分のものなのだ。人を殺しえる程度に強い我々は弱者ではないのだから、民衆が連帯すれば力になり、社会を変える事も可能だ。
=============================

彼らのようなマイノリティ(非正規雇用者・非モテ者)が苦境に立たされているのは事実だろう。貯金のあるニートの私より、赤木氏のほうがよほど不幸で苦労人だし、モテに関しては私も勝ち組とは言えないものの、「恋愛至上主義粉砕!」とか叫ぶほど行き詰ってもいない。
そして、彼らの抱える問題が個人だけではなく、社会的な問題と関わっている事も否定しない。
けれど違和感を覚える。彼らはそれぞれ異なる問題意識を持ち、異なる立場におり、実際の主張・活動も異なっていながら、その源泉には同じもがある。それは「暴力行使能力への自信」だ。
赤木氏は「暴力行為によって社会的立場を覆せる」と考え、戦争という暴力行為に参加することで、自身の救済を望む。例え戦死しても、フリーターとして惨めに死ぬよりも、英霊として靖国に祭られたほうがマシだとも言う。一方で古澤氏は「暴力を行使できる能力と自信があるからこそ、私たちの連帯は社会を変え得る」と言う。
正直なところ「健常者の男の子って、幸せでいいなぁ」としか私には思えない。

私は身体障害のある女なので、自分が暴力を行使できるという自信など微塵もない。むしろ暴力を行使されることへの恐怖のほうが、よほど根源的なものとして身体に染み付いている。
私(のような人間)は戦争になれば真っ先に殺されるだろうし、いかに戦争バンザイと思っても徴兵すらされず、戦場に行くことは出来ない。出産もできない体なので、「産めよ増やせよ」に参加する事すら不可能だ。
戦争になれば、思想信条を問わずその身体性だけで、私(のような人間)は間違いなく「非国民」である。だから私には、戦争による立場逆転はありえず、どんな死に方をしても靖国に祭っていただける事も無いだろう。
また、いかに殺意があっても、古澤氏が前提としている「だれもが保有している、人を殺すくらいの能力」を、私は幸か不幸か保有していない。少なくとも自分ではそう思っている。だから古澤氏の理屈で言えば、私には「強者であるが故の連帯能力」は無いのだろう。

彼らのに苦境を決して軽視しないが、それでも尚、私には彼らの言葉が「幸せな絵空事」に思える。彼らの言う希望も連帯も、結局のところ、健常者で、出来れば男で、高齢者ではない、戦闘能力を保持した人間にしか開かれていないからだ。
それは、正規雇用者にしか安定収入が開かれていないことや、モテる人間にしかある種の「尊厳」が開かれていない事と、私には同じように見えるのだけど。

<関連>
オールニートニッポン「若者たちの"心の病"と"非モテ"問題」
オールニートニッポン「フリーターの"希望"は戦争か?」
戦争は“希望”なのか?


nice!(1)  コメント(7)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1

コメント 7

solea01

TBありがとう。該当記事とは違うが、興味深い論点を提起していると思いました。
by solea01 (2007-08-30 19:32) 

ユメウツツ

TBいただいたので記事を見に来ました☆

この記事の提起に考えさせられました。

古沢さん(?)方々の論理は、古沢さんが連帯すべき対象が労働者階級全体だという視点で語られていないのかもしれません。そして、「人を殺せる人間」一般が強い、という表現になったのだと思います。
だから「権力を倒すことができる存在」=健常者の男、と取られても仕方がない内容になったのかもしれません。
でも、彼らが言いたかったことの本質は、健常者の男でも、一人ではせいぜい何人かを殺す自己満足で終わるけれど、人々が連帯すれば本当の敵を実力で倒すことができるんだということではないでしょうか。
その連帯する人々とは「男性」ではなくて「労働者階級みんな」、というのが本当の強さの秘訣だと思います。

私が参加した今年のヒロシマのデモでも、お世辞ではなく一番戦闘的だったのは車いすの女性でした。彼女は機動隊をふりきり、一番にデモ隊列を拡大させて一番はじめに中央分離帯に到着しました。
その彼女を囲い込んで手を出そうとした機動隊に対しては、老若男女(私も)、ものすごい怒りで、自分の保身なんかすべて忘れて、「絶対にゆるせない!!!」と機動隊を押しのけました。

車いすで猛然と機動隊に対峙した彼女の強さ・奮闘がなければ、「健常」の男性も女性も、そんな怒りの行動を取らなかったと思います。それが団結の力だと思います。

まとまりないですが・・・私も同じ気持ちを抱えていたので(今も男性への不信感などは残ってますが。笑)、一緒に、もう一回だけ仲間を信じてみませんか?と提案したくなりました。生意気だったらごめんなさい。
また来ます。
by ユメウツツ (2007-08-30 22:51) 

sasakich

>solea01さん
ご来訪&コメントありがとうございます。
ぜひとも、またお越しください♪

>ユメウツツさん
私も連帯・団結の力について信じてはいるのですが、その根源にあるのが暴力ってどうよ?と思ったもので。
ヒロシマでのお話は良いエピソードですね。
機動隊はどんどん押しのけて行きましょう!(笑)
by sasakich (2007-08-30 23:10) 

solea01

すみません、自分のコメント短すぎですので追加意見ですが。自分自身は完全に暴力否定の立場に立つものではありません。国家の不当な暴力に民衆が暴力抵抗をする権利はある、と考えています(ベトナムもイラクもそうです)。ですが、一方自分の正当性のみに凝り固まった政治党派間の壮絶な殺し合いも70年代の大学時代に見ています。そしてそれは大衆運動への破壊にしかならなかった。だから今は、こうした「革命的な暴力」などという言葉には寒々とした気持ちにもなりますね。


だから結構、難しい問題だと思います。社会運動と暴力、抵抗権などの問題は。障害者の視点、というのはまた新たな提起だとも思いますね。ではまた。
by solea01 (2007-08-31 23:36) 

sasakich

solea01さん

引き続きご来訪&コメントありがとうございます。
仰るように、特に戦時下などで向こうが武器を持って攻めてくるときに「こっちは非暴力」とか言ってられないわけで、難しい問題ですね。
ただ、それでも尚、少なくとも民意の連帯によってなにかを目指そうとするなら「出来るだけ非暴力」でい続けるのは大切なことだと思います。暴力をふるえない人々を切り捨てない意味でも。
そういう点では、辺野古の基地反対運動が「完全非暴力」を掲げ、殴られても殴り返さないことは新たな動きだなと思います。
by sasakich (2007-09-01 14:06) 

無名

たまたま見かけたので、コメントを入れさせていただきます。
「暴力」とは、人を殴ること以上に、人数を集めることに本質があります。
恐らく、どのような軍隊も、100万を超える民衆に発砲や鎮圧は不可能でしょう。
むしろ、この場合における「暴力」とは、在郷軍人や肉体労働者のような、体力的に優位に立っている限られた人々ではなく(このような人々のみではただの暴動、戦闘で終わる可能性が高いです。)より、雑多な人々による集団のほうが、社会の総意としての説得力を持つと思います。
by 無名 (2007-09-06 10:43) 

sasakich

無名さん

来訪&コメントありがとうございます。
多様な集団のほうが力を持つ、という点に共感します。むしろ、だからこそ、物理的な暴力が前提になっている(と私には思える)言説に違和感を持ったというか。
人並み外れて丈夫な人も、体力ゼロの人もいてこそ、本当に「力のある集団」という気がします。
by sasakich (2007-09-08 14:34) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。