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「命は大切」と叫ぶより大切な事 [自殺]

少し前の話になるが、7月1日の「自殺を"語ることのできる死"へ ~自殺対策新時代 官民合同シンポジウム~」に参加してきた。自殺対策に取り組む多くの団体・個人が参加し、4時間を超える長丁場にも拘らず、大変に中身のある濃いシンポジウムだった。
しかし、一点だけ非常に気になる部分があった。冒頭で紹介された、高市早苗(自殺対策の内閣府特命担当大臣)の挨拶である。
始めは国の責任で自殺対策を推し進めていく決意が述べられ、批判の声もあった削減目標の数値について説明があり、そこまでは、まぁ普通なのだが、締めくくりが意外だった。
「命は先祖代々受け継がれた大切なものです。あなたの命はあなただけのものではありません。何があっても、歯を食いしばって生きていきましょう」(記憶に基づく意訳)と、ようするに「あなただけの命じゃないんだから、自殺で粗末にしちゃいけない」的な内容だったのだ。
ついさっき、「自殺は個人の問題ではなく社会の問題です」と言っていたのに、結局は「死を選んで命を粗末にした本人が悪い」とも取れるような発言で終わった。タカ派と称される議員らしい発言だとは思いつつ、正直、愕然としたし、悲しくも悔しくもなった。担当大臣の認識がこれでは、国の自殺対策の行方が思いやられる。
高市議員は松岡前大臣が自殺したときにも「命は自分一人で得たものではなく、ご先祖さまがつないできたもの。歯を食いしばって生きていかなければ」と、同じ趣旨のコメントをしている。

私は10年近くに渡って、断続的に「自殺願望」を持っていた。「自殺願望」は、文字通りに取れば死にたい願望だが、私の経験からすれば、「死にたい」より「生きていたくない」のほうがしっくり来る。明日も辛い一日が始まる嫌なのだ。絶望的と思える未来が来るのが怖いのだ。
だから、自殺を考えている人に「命は大切だ」などと言っても、意味は無いか逆効果だ。命を粗末に思っているから自殺を考えるわけじゃない。命を大切だと思ったところで、生きることの苦痛(例えば借金やいじめ)が無くなるわけではない。生きることを放棄せざるを得ない(と本人には思える)状態の人に「命を粗末にするな!」と言っても、自分の辛さを分かってもらえないのだと、心を閉ざすだけである。
もちろん、例外はあるだろうし、様々な人がいる。しかし、それでも言えるのは、多くの自殺を予防するために必要なのは、死を禁止するのではなく生を支援する姿勢だということだ。生きていくのがあまりにも辛すぎる「生」が変われば、自然と生きていたい気持ちが沸いてくる。
そして、その「生」を担っているのは社会である。だから「自殺は個人ではなく社会の問題」なのだ。

いじめ自殺の度に流れてくる「命を大切に」を、私はずっと「命は大切だから、いじめなんかで人を死に追いやってはいけない」の意味だと思っていたから、実は「命は大切だから、自殺なんかで粗末にしてはいけない」だと知って驚愕した。
命が大切じゃないと思って死ぬ人間など、いない。仮に「私の命に価値は無い」と思っていても、それは状況によって思わされているだけであって、なんというかストレートな意味での「自分の命に価値は無い」ではないのである。それはどの年齢でも同じことだ。
自殺の原因は、死ではなく生にこそあると理解して初めて、「社会問題としての自殺対策」は、有効な道を選ぶことが出来る。


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しろのぽ

はじめまして。

私はあの会場に、ボランティアとして参加していましたが、例のコメントの瞬間、自分の中にすごい違和感が走ったのを覚えています。
「歯をくいしばる」ほどの気力さえも奪われる人がいるのだ、という想像力を、この人(小泉前首相も同様の発言をしたように記憶してますが)を持ち合わせず、ただ自分の価値観を披露しただけの、非常に稚拙なコメントであると思いました。
どうせ政権が代われば別の人になるだけの「お飾り」だし、誰がなっても同じなんでしょうね。イヤな話です。
どのみち本当に重要なのは、そんな大臣ではなく現場にいる人々、当事者に違いありませんが。

>多くの自殺を予防するために必要なのは、死を禁止するのではなく生を支援する姿勢だ
心から同意します。なぜこれに皆気付かないのか・・・
by しろのぽ (2007-09-01 23:50) 

sasakich

しろのぽさん

初めまして。来訪&コメントありがとうございます。
会場にいらしたんですか! やっぱり、あの発言は疑問に思いましたよね。
あとで遺児の方がお話された中で「あの強いお父さんですら生きていけなかった社会を、どうして私が生きていけるんだろう」という発言があり、胸をつかまれた思いでした。高市さんの発言は、その「生きていくことが出来ないと思える厳しい社会」を温存するようにしか私には思えませんでした。

>どのみち本当に重要なのは、そんな大臣ではなく現場にいる人々、当事者に違いありませんが。
そうですね!
政府がどうだろうと、現場の人々がこれだけ真剣に取り組んでいる以上、楽観は出来ないけど絶望的では決してないと感じています。
by sasakich (2007-09-02 12:31) 

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