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恐れるべき相手は誰か [総論]

萱野稔人著「カネと暴力の系譜学」を読んだ。カネと暴力の構図を通して、社会の成り立ちを本書は考察している。
例えば、国家が<暴力への権利>を独占している=戦争、違法者の身体拘束・死刑などを通じて、国家のみが合法的に暴力を行使できる、ことの理由について、このように述べられている。
 - つまり、国家が<暴力への権利>を独占しているのは、社会における他のあらゆる暴力を圧倒し、<違法な>行為を取り締まるだけの物理的な力をもっているからにほかならない。要は、社会のなかでもっとも強いから、ということだ。 -
まぁ、そりゃそうである。違法を規定している国家のほうが、違法な他の暴力よりも弱ければ、つまり取り締まる側よりも取り締まられる側の方が強ければ、そもそも取り締まり自体が成立せず、違法であることは何の意味も持たない。そして本書でも述べられているように、国家だけがこのような<暴力の権利>を独占しているのは、別に国家が(道徳的に)正しいからではなく、単純に「一番強いから」でもある。
そう考えれば、その「<暴力への権利>を独占している国家」が暴走することこそ、もっとも恐ろしいと言えるだろう。なにしろ、それは「正しいかどうかはともかく、もっとも強いものの暴走」を意味するからだ。
その暴走を防ぐためには、当然ながら市民による国家の監視が必要であり、市民は、国家が暴走していないかを常に監視することで国家の暴走を防ぎ、国家の暴走による市民の被害を防ぎ、ひいては自らの個人的な身体や生活を守ることが可能となる。本来は、国家を監視し、国家が暴走していないかの判断材料を市民に与えることが、メディアの本義でもある。

しかし、現実にはどうだろうか。
国家は様々な形で(例えば冤罪事件の被告人への刑罰や、戦争によって)実際に市民を脅威に晒す可能性があり、現にその実績もある。だが、国家が暴走し得る、市民にとって脅威になり得るという発想は、着実に、そして急速に薄れてきてはいないだろうか。
ちょっと話は飛ぶが、核廃棄物最終処分施設をめぐる東洋町の動きの中で、非常に印象に残る場面があった。町が処分施設の候補に挙がることへの賛成派・反対派に分かれる中で、双方が議論する場面が報道されていた。反対派の人々が、処分施設の危険性について訴える。それに対して、賛成派住民の一人が、こう反論したのである。
「国が、そんな危険なものを持ってくるわけ無いでしょう」
私はこの発言を聞いて愕然とした。国家に対する「オカミ」としての絶大な信頼が、そこにはある。国家への監視姿勢など微塵も無い。
9.11直後のアメリカでは、国家の暴走によるイラク戦争よりも、一部の他国民が暴走したことによるテロのほうが、圧倒的な脅威であると認識されていた。その中で、罪もないアラブの人々が公然と監視され、取締られることが容認された。
今の日本社会は、そのときのアメリカに似ている。国家の暴走による改憲や死刑の乱発よりも、一部の国民が暴走して起こる凶悪犯罪や、他国の暴走によるテロへの懸念が重要視され、厳罰化と監視社会が容認される。「一部の暴走する市民=犯罪者を(国家の暴力によって)強固に監視し、(国家の暴力によって)厳罰に処せ」との声が高まっている。
国家がどうだろうが、かわいそうな被害者がいて恐ろしい犯罪者がいるんだから、厳重に処罰せよと、そういうことだ。

だが、そもそも、市民の恐れる(国家以外の)「脅威」そのものが、国家とそれに迎合するメディアによって煽られている。治安が悪化していると言われる昨今、その「治安悪化」自体が、国家によって作り出されている。
それこそがまさに「国家の暴走」の一端である。国家が本当に怖いもの=自分を隠すために、実際には自分の監視下であり暴力行使の範囲内にある犯罪を、さも急増しているように見せかけ、凶悪化しているように見せかけ、何よりも恐ろしいもののように印象付けてはいないだろうか。
私たちはもう一度、本当に一番恐ろしいのは何かを真剣に考える必要があるだろう。
国家への監視能力を失った社会に、国家の最大の暴力行為であり、市民にとって最大の脅威である「戦争」を、防ぐ力など存在しないのだから。

<参考資料>
【カネと暴力の系譜学】
http://www.bk1.co.jp/product/2733326
【関連資料「治安・防犯」の周辺】
http://www.kepco.co.jp/insight/content/column/library/library073.html


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